*ヒエという嫌われ者

 

田植えが終わった7月になると、畑や田んぼにはヒエという稲科の草がたくさん生えてくる。

水があろうがなかろうが関係なしに、強く元気に勢い良く成長する。

だから、畑の野菜や田んぼの稲は、この強いヒエに負けてしまうこともしばしばだ。

稲や野菜よりも後から芽を出すくせに、成長スピードが速いので、米や野菜の背丈はすぐに追い越されてしまう。

少しの間目を離した隙に、驚く程大きくなっているのだ。

大きくなってくると、深く根を張るので、引っこ抜くのも一苦労。小さい内に抜いておこうとこちらは必死になるのだが、ヒエはそんなことはお構いなしに遅れて芽を出すものもいて、結局イタチごっこなのである。

田んぼに生えるヒエの苗はお米の苗にそっくりで、関心するほどだ。まるで、ヒエは米の姿を知っていて、人を騙しているかのようだ。

そんな強いヒエを見ていると、米がヒエの様に強ければ良かったのに、もしくはヒエが食べやすく、とても美味しい植物だったら良かったのに、と思ってしまう。

こぼれ種で毎年芽を出して、水があろうがなかろうが成長し、他の草に負けない強さを持ち、肥料なんてあげなくても大きく育ち、実を沢山つける。そんな米だったら、わざわざ栽培せずとも、人間は遊んで暮らせるのに…。

ヒエだけでなく、セイタカアワダチソウや、ギシギシやスイバなど、自然に生えている草は、人に栽培されずとも立派に育っている。それらを人が美味しく食べられたなら、誰も食べるものに困らず暮らせるのに…。

なんて、怠け者のような事をついつい考えながら眺めている。

しかし彼らは、なんでそんなに強くなったのか?

野菜や米とは明らかに違うのだ。

私達人間は、自分にとって都合の良いものと悪いものを分別し、都合の悪いものを排除しようとするクセがある。

草でも虫でも菌でも、時には人間同士でも。

そしてその排除という扱いを受けたモノは、どうも強くなっていくように思える。

例えば、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)という菌がいる。

介護や看護職の人ならばよく知っている菌だ。

元々は、ただの黄色ブドウ球菌だったこの菌は、免疫力の低下した病人や年寄りが感染すると死に至る事もあり、病院や施設での院内感染が問題となっていた。

だから人は、この菌をバンコマイシンという抗生物質を使って殺した。

ところがほんの一部だけ、バンコマイシンでは死なない黄色ブドウ球菌がいた。

で、バンコマイシンでは死なない黄色ブドウ球菌だけが生き残り、繁殖した。

だから今度は、メチシリンという抗生物質でもって黄色ブドウ球菌を殺した。

ところがやっぱり、メチシリンでは死なない黄色ブドウ球菌がほんの一部だけ生き残った。

で、メチシリンでは死なない(メチシリンに耐性を持った)黄色ブドウ球菌が出来上がったのだ。

人はこんな事を、何度も何度も繰り返してしまうのだ。

だって、相手は強く、勝ち目がないから怖いのだ。

けれど、殺虫剤では死なない虫が出てきたり、除草剤では死なない草になったり、排除しようとすればする程、相手は強くなるようだ。

除菌や除草もほどほどにしておかないと、相手はますます強くなり余計に怖い事になる。

逆に、大事に過保護に育てると、植物でも虫でも動物でも人でも弱くなってしまうのではないだろうか?

現代人は免疫力や回復力は低下し、アトピーやアレルギーが増え、昔の人と比べると弱々しくなっていないだろうか?

巷では、「除菌しましょう!」とテレビに煽られ、手や体や部屋中いたるところを殺菌しようと躍起になっているし、

おにぎりをお母さんが素手で握ったり、糠床を素手でかき回すのは「汚い」という意見まで出る始末である。

子供を守りたい気持ちは分からなくもないけれど、少々のばい菌や、お母さんについている常在勤を子供が摂取することで、免疫力も上がると思うのだが。

大事なものを、大事に扱えば扱うほど弱くなり、

要らないものを排除したり雑に扱えば扱うほど強くなっていくように見える。

 

ヒエは怖い。負けるのが分かっているから怖く、排除しようとするのだ。

けれど、その生きる強さと知恵には脱帽してしまう。

だから今日も、尊敬の念を込めながら、田んぼのヒエを引っこ抜くのだ。