種まきの季節である。
温床やハウスを使っていないウチの畑では、
気温がゆうに20度を超えてこないと野菜の種は発芽しない。
移住して初めの頃は、
早く種を蒔きたいものだから、
夏野菜の種まきを2月半ば頃から始めていた。
売っている種の袋には、温暖地なら2月から種まきが出来ると書いてあったのだ。
それを信じて種まきを始めるのだが、待てど暮らせど芽は出てこない。
発芽率が悪いのかと思い、何度も蒔きなおしたものだ。
2月に種を蒔いても芽は出てこないのだと悟ってから、
種まきは4月に入ってから蒔くようになった。
それでも4月の気温は不安定で、
なかなか芽を出さないものもある。
「待つ」ということが苦手な私は、少しでも早く、野菜を育てたい。
だから、ホームセンター等で野菜の苗を少しだけ、早めに買っておくこともある。
売っている苗はF1種といって、生育は旺盛であるものの、代々種を残せない品種である。
食べて安全なのかは不明だ。
それを食べたらすぐに不健康になるわけではないのだが、
気持ちの問題である。
「待つ」事が出来ない私は、
一応4月から順に種まきを始めるのだが、
品種によっては早く収穫したいから、種を蒔くという作業を省く。
例えばゴボウを収穫したら、
根と茎の境目から下2センチ程の所で切って、食べない茎の方を土に埋め直す。
すると、そこからまた根が生えてゴボウができる。
ただし、牛蒡の根は蛸足になりやすい。
ゴボウは花が咲き、種を残すと寿命がきて死んでしまうから、
春、塔立ちする前には掘って、
根は食べて茎は土に挿しておく。
これで種から育てることなく長く収穫できてしまう。
これは徳島の師匠に教わった技だ。
キャベツやブロッコリーは収穫した後、そのまま置いておくと、
太い茎から脇芽がたくさん出てくる。
その脇芽をポキツと折って、それを土に挿しておく。
すると、その脇芽は根を張り、
成長し、キャベツやブロッコリーになるのだ。
アブラナ科の野菜は種類が豊富にあって、キャベツやブロッコリーの他に小松菜、水菜、チンゲン菜、白菜、からし菜、ケール、大根、カブ…と多彩である。
これらの種も自家採種したいところなのだが、
大根以外の菜っ葉、黄色い菜の花が咲くものは交配しやすく、
種を取って蒔いても親とは違うものが出来てしまう。
だから、それらは種を取ることを諦め、固定種の種を購入する事にしている。
けれど、その中のキャベツ、ブロッコリー、カリフラワー等は
実は多年草で、
収穫した後も生きていて、しばらく放置していると脇芽を出して花を咲かせようとするのだ。
その脇芽を挿し木しておけば、またキャベツやブロッコリーになり、
収穫したらまた脇芽を挿して、と何度も何度も繰り返せるのだ。
じいちゃんが植えたキャベツの苗は、6~7年は生きていた。
苗を購入する必要もないし、苗を育てる必要もない。
交配を心配する必要もないし、種を取る必要もない。
種だけでなく、脇芽でも代々命を繋ぐことが出来るのだ。
全ての野菜の種を自家採種するのはとても難しい。
大根の種はスズメが食べてしまうし、
からし菜の種を明日取ろうと思って次の日に見に行ったら全部弾けてなくなってるし、
小麦は全部カラスが食べちゃってるし、
野菜そのものが上手く育たなかったりするし、
近い品種のものと交配してしまうし…
自然の中にいると、私の思い通りには行かないものだ。
自然の中で思い通りにならないことを、
思い通りにする必要はない。
そうしようと思うと農薬や科学肥料や除草剤が必要になってしまう。
だから、自然の法則に則った上で、手抜きすることをついつい考えてしまうのだ。